最高裁判所第三小法廷 昭和23年(オ)150号 判決 1949年5月31日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
本件上告理由は末尾添付の別紙記載のとおりであつて、これに対する判断は次のとおりである。
第三点
原判決は、上告人等の抗弁事実についてはこれを認めることはできないと判示し、却つて本件手形は上告会社が小林奥藏から、同人所有の蚊取線香四〇梱(当時上告会社が保管中のもの)を代金二万四千円で買受け、其代金支払の為これを振出したものであつて、受取人北山彰助及び上告人戎谷清治は上告会社振出の右手形債務を保証する目的でこれに裏書をした事実を認定したのであつて、原判決挙示の各証拠によれば、原審の右認定は充分之をなし得るのであつて、何等法則に違反するところはない。そして右蚊取線香の売買は特定物の売買であること判文上明らかであるから、空襲によつて右線香が滅失したとしても、売主の代金債権が消滅する理由はない。従つて右線香の滅失により、本件手形の振出が原因を欠くに至つたものとはいい得ないから、原判決は、理由齟齬があるとか虚偽の証拠によつて抗弁事実を排斥した違法があるとか、審理不尽であるとか主張する論旨は、理由がない。
第四点
按ずるに、手形の裏書人が振出人の手形債務を保証する目的で裏書をした場合においても、裏書人の債務と振出人の債務とは別個の債務であるから、手形債権者が振出人に対して、単に手形債権の確認判決を求め、裏書人に対しては、手形債務について給付の判決を求めたとしても、何等違法はない、そして原判決が、振出人たる上告会社に対しては本件手形債権の確認判決を為し,裏書人たる上告人戎谷清治に対しては、手形債務について給付を命ずる判決をした理由は、手形債権者たる被上告人の請求に基づくものであつて、上告人戎谷清治に対し、上告会社の債務の範囲態様を超える債務を負担せしめることを認定した趣旨でないことは、判文上明白である。従つて原判決は所論の如き違法はない。
よつて民事訴訟法第四〇一条同第九五条同第八九条により、主文の通り判決する。
以上は、裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)